彼女とすごした夏。と、虫の話。

半年ほど前から、友人の飼い猫をたびたび預かっています。長いときで2週間ほど。2日ほど飼い主のもとへ帰って、またわが家へ、というようなときもあります。

半同棲状態です。

彼女の名前はウニといいます。

ウニの人との距離感は絶妙です。つかず、離れず、懐いているような、懐いていないような、頼りにされているような、相手にされていないような。まあ、多くのネコとその飼い主の関係と同じなのでしょう。「わが家のウニ愛>ウニの安斎家愛」という、健全な関係性が築かれています。あくまで預かっているのですが、いないと寂しい。半分家族みたいな、そんな存在です。

その愛する彼女ですが、どれほどかわいい子でも、やはり直してもらいたい癖のひとつやふたつはあるものです。

始まりは唐突でした。

ある晩のこと。家族が熟睡しきっている午前2時。ビー!ビー!と寝室でセミがあらん限りの声で鳴きだしました。バサバサと羽音が鳴り、障子にぶつかる。ウニがバタバタと走り回る。「おとーちゃーん!」と泣き叫ぶ妻子。もはやブレーメンの音楽隊の世界です。

家族は恐れおののき、部屋の隅に固まります。状況を把握するまで数分を要しました。ウニは外でセミを捕獲し、セミ・ファイナル状態の瀕死のセミをわれわれに見せびらかしつつ、暴れるセミをもてあそんでいたのです。

ウニを追い払い、生死不明のセミをつかんで外へ投げる。書いてしまえば一行ですが、夜中の寝室で遂行するには相当にハードルが高い任務です。正直、完全に死ぬまで放置したい。そうでなければ、それなりの金額を支払うので、外注したい。

しかし、一家の長としてやらねばなりません。半泣きになりながら、電気をつけ、断続的にのたうち回るセミをつまみ、外へ投げ出しました。セミはよれよれと飛んでいきます。僕は家長としての面目を保ちました。

それからというもの、何度、僕は生死の境をさまようセミを助け出し、屋外へと放ったことでしょう。ほぼ毎晩です。

彼女とすごした夏。と、虫の話。

ショウリョウバッタの日も何度かありました。

知っていますか、ショウリョウバッタ。バッタと言われて想像する長さの3倍くらいあるバッタです(調べたらメスがでかくて、オスは小さいようです)。大してスピードはないものの、飛びます。飛ぶんです。

くつろぎの空間で、一日の終わりをのんびりとすごしているところに、10センチくらいの生き物がバタバタと飛翔し、顔に向かってくるのを想像してください。不惑を超えた夫婦も、惑います。

彼女とすごした夏。と、虫の話。


そんなこんなで、僕はこの夏、多くの瀕死の虫を救いました。いつか、わが家のピンポンが鳴り、「あの日、助けていただいた者です」と色黒で騒がしい男が現れても、あの日がどの日かわかりません。


半同棲の彼女とすごした夏ももうすぐ終わりですが、こんなにドキドキした夏は初めてです。

(夫記)

プロフィール
安斎
安斎
長野市郊外のフツウの平屋で暮らす家族4人のフツウの日々を、夫と妻それぞれの目線で綴ります。これまでのブログ「安斎家のフツウな門前暮らし」「安斎家のフツウな城下町暮らし」「安斎家のマスオさん暮らし」もよろしかったらどうぞ。
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